愛用している日用品、ありますか?
長く使えば使うほど愛着が湧きますよね。
日本では昔から、道具も時が経つと、命が宿るといわれています。
これが付喪神です。九十九神とも書きます。
九十九神の名の由来は、生物でないものも100年たつと心を宿すようになり、化けて出るようになるという『付喪神記』の記録からです。なので99年たったら、祓い清める風習もあったそうです。
化けて出てくるのは、人間に使われなくなった悔しさからでした。
使われなくなって化けて出るということは、人間のそばにいたいということでしょうね。
そう考えると、怖いはずの付喪神も、少し可愛げがあるような気がします。
そんな古道具の化身たちの世界へご案内します。
鐙口(アブミノグチ)
戦で亡くなった主の馬具がそのまま野原に放置され、命が宿ったものです。
使われなくなった無念で付喪神が生まれるなら、死んだ主を待っているんでしょうか。
雲外鏡(ウンガイキョウ)
鏡の妖怪です。鏡ですが江戸時代なので、金属をよく磨いた道具です。妖怪や魔物を映す照魔鏡という道具が化けたもので、鏡の表面に顔が現れています。
笈の化物(オイノバケモノ)
仏具を山伏などが入れて背負う箱が笈(おい)です。足利直義の寝室に出たという伝説があります。
元々、笈には脚がありますが、その四足のうちの二本から鳥の脚が生えています。笈の体の上から出た人の頭の、口には折れた刀の刃を咥え、ときおり火を吹くそうです。
貝児(カイチゴ)
貝桶という貝合わせの貝の入れ物が化けたものです。貝合わせは、平安時代の貴族の女性が嗜む、ばらされた二枚貝を対に戻す遊びです。女性の遊び道具なので、少女の姿をした付喪神だそうです。
唐傘小僧(カラカサコゾウ)
一つ目の唐傘一本足の妖怪で、べろんと舌を出して、下駄で飛び跳ねて人を驚かせる姿が有名です。呼び名がいろいろあって、唐傘おばけとか、かさおばけとか、幽霊傘などとも呼ばれます。
瓶長(カメオサ)
水瓶の化身で、無限に水が尽きない瓶にしてくれるという、ありがたい存在です。井戸まで行かなくていいので、幸運の付喪神といわれたそうです。
画霊(ガリョウ)
画家の土佐光起が描いた、ぼろぼろの屏風から出た化身で、女性の付喪神です。
勧修寺という公家にあった屏風でしたが、修繕を願う作者の執念の表れとも言われています。
経凛々(キョウリンリン)
僧の守敏の経文の化身です。法力比べを空海としたものの負けた時に、守敏が使って残した経文だそうです。徳の高い僧の力が、宿っていそうですね。
鉦五郎(ショウゴロウ)
仏具の鉦鼓の付喪神で、青銅製の体から、亀のような手足を生やしています。富豪の贅を求める執念の化身です
淀屋辰五郎という有名な豪商がいましたが、彼のように悪い噂の絶えない金持ちたちの気が宿ると言われています。
木魚達磨(モクギョダルマ)
木魚の化身です。魚は目をつぶらないことから、木魚は修行僧への戒めと言われています。
この付喪神は不眠症を引き起こすらしいですが、この付喪神自身も瞬きできない苦しさで、人に憑りついているそうです。
禅釜尚(ゼンフショウ)
笹を手に持って現れ、釜の顔に人間に近い体をもっています。
鞍野郎(クラヤロウ)
鎌田政清の馬の鞍の化身です。先に紹介した、鐙口と同様、戦で主人が死んだまま野に放置されるうち、付喪神となったものです。やはり主人が恋しいのでしょうか。
乳鉢坊(ニュウバチボウ)と瓢箪小僧(ヒョウタンコゾウ)
なぜか二人同時に現れることが多いそうです。仲が良いのでしょうか。
乳鉢坊は銅板の鉦(芝居の打楽器)の妖怪で、瓢箪小僧は薬や酒の容器に使われた瓢箪の妖怪です。乳鉢坊は音で驚かし、瓢箪小僧は奇怪な顔かたちで怯えさせるそうです。
山颪(ヤマオロシ)
大根やワサビをすりおろす、おろし金の妖怪です。
やまあらしの別名、山おやじに名が似ていることから、この付喪神も体中にとげが生えた姿だそうです。
無垢行縢(ムクムカバキ)
河津三郎が暗殺された時まで身に着けていた、行縢という両足や袴の上から覆う鹿毛皮の着物。主人が死んだ後に命と恨みを得て、付喪神になったものです。
主人が消えた後の赤沢山に、姿を見せるようになったそうです。
暮露暮露団(ボロボロトン)
着古してぼろぼろになった衣服の付喪神です。虚無僧の悟りと、梵論からその名が来ているそうです。ぼろぼろになった姿の虚無僧の托鉢の姿が、目に浮かぶようです。
猪口暮露(チョクボロン)
こちらも虚無僧の姿をした妖怪ですが、食器のお猪口の付喪神です。頭が逆さに被ったお猪口のような姿で、下が虚無僧の体です。
文車妖妃(フグルマヨウヒ)
筆で書かれた紙や文章や巻物を内裏から大量に運ぶ、文車という荷車の付喪神です。
平安時代の女流作家たちの気持ちが宿ったのか、着物をまとった女性の姿をしているそうです。
面霊気(メンレイキ)
能や狂言の元となった申楽の創始者といわれる、秦河勝が所有していたお面の付喪神です。聖徳太子から与えられたお面で、時が経つうちに、ひとりでに動き出すようになったそうです。
琵琶牧牧(ビワボクボク)
名楽器と呼ばれる琵琶、玄象は牧馬とも呼ばれ、それが妖怪化したものです。
火災に遭って人が取り出せなくても自ら庭に飛び出たとか、下手なものが弾こうとすると頑として鳴らないとか、紛失したのちに源博雅が美しい音を辿ったら羅城門で鬼に弾かれている玄象牧馬を発見したとか、伝説が多いです。
如意自在(ニョイジザイ)
お坊さんが背中がかゆいときに使う、如意という道具が妖怪化したものです。
背中がうまくかけなくて困っているときにやってきて、いい感じにかいてくれるという、なんだか優しい妖怪です。ただ、爪が長いのでちょっと痛そうで怖いです。
化け草履(バケゾウリ)
古い草履の付喪神で、草履の顔に藁人形のような体から、獣のように黒い手足が生えています。よく蜥蜴のような馬に乗って、やってくるそうです。
履物を大事にしてほしいという願いで、妖怪になったそうです。
古空穂(フルウツボ)
弓矢の矢を背負うための道具が空穂で、それが付喪神になったものです。
三浦義明の持ち物が妖怪化したものが有名ですが、主人の武勲を忘れたくなくて、化けたのでしょうか。
塵塚怪王(チリヅカカイオウ)
ゴミの山を総べる、塵の王と言われる付喪神です。よく巻物や衣服の入った唐櫃をこじ開けようとするので、中身を付喪神として目覚めさせようとしているといわれています。
鬼の姿に似ているそうです。
提灯お化け(チョウチンオバケ)
捨てられたり、古くなって破れた提灯が、妖怪になったものです。
やぶれ提灯とも呼ばれますが、四谷怪談のお岩さんの幽霊が宿った「提灯お岩」も有名です。
瀬戸大将(セトタイショウ)
瀬戸物の付喪神です。瀬戸物が集まったような体をしているので、焼き物の甲冑姿の武将のように見えます。
白溶裔(シロウネリ)
一見すると白竜のように見える、ぼろ布の化身。竜のように風に舞っていますが、布巾や雑巾の妖怪とも言われていて強烈なにおいがするので、風下の人を気絶させるそうです。
古籠火(コロウカ)
石の灯篭の付喪神で、火を吹く鬼の姿をしています。しばらく人に忘れられていた灯篭が、火をつけてほしがるそうです。鬼火の一種とも言われます。
角盥漱(ツノハンゾウ)
顔を洗うのに使われる水盆の付喪神で、小野小町が使っていた角盥が有名です。
美しい着物をまとった女性の体と、角盥の頭で現れます。
まとめ
1.鐙口(アブミノグチ)
2.雲外鏡(ウンガイキョウ)
3.笈の化物(オイノバケモノ)
4.貝児(カイチゴ)
5.唐傘小僧(カラカサコゾウ)
6.瓶長(カメオサ)
7.画霊(ガリョウ)
8.経凛々(キョウリンリン)
9.鉦五郎(ショウゴロウ)
10.木魚達磨(モクギョダルマ)
11.禅釜尚(ゼンフショウ)
12.鞍野郎(クラヤロウ)
13.乳鉢坊(ニュウバチボウ)と瓢箪小僧(ヒョウタンコゾウ)
14.山颪(ヤマオロシ)
15.無垢行縢(ムクムカバキ)
16.暮露暮露団(ボロボロトン)
17.猪口暮露(チョクボロン)
18.文車妖妃(フグルマヨウヒ)
19.面霊気(メンレイキ)
20.琵琶牧牧(ビワボクボク)
21.如意自在(ニョイジザイ)
22.化け草履(バケゾウリ)
23.古空穂(フルウツボ)
24.塵塚怪王(チリヅカカイオウ)
25.提灯お化け(チョウチンオバケ)
26.瀬戸大将(セトタイショウ)
27.白溶裔(シロウネリ)
28.古籠火(コロウカ)
29.角盥漱(ツノハンゾウ)
たくさん紹介しましたが、善いものも悪いものも、いろいろですね。
物を大事にしたら、あなたの道具にもよい付喪神が宿るかもしれません。